『クラウドサーバーとレンタルサーバーの違いは?』と聞かれて、答えに自信がある人は分かっていない可能性大です。
その理由は、2つは根本的には同じだから。
クラウドサーバーとレンタルサーバーの『一般的に』言われる違いを、誰でも分かるように専門用語を使わずに説明します。ちょっと上級編のVPSについても触れます。
- サーバーってなんだ?
- クラウドサーバーとレンタルサーバーは同じもの
- レンタルサーバーの登場
- レンタルサーバーはなぜ安く提供できたのか?
- クラウドという言葉の登場
- クラウドサーバーで使う人が変わった
- クラウドが爆発的に広がった理由
- レンタルサーバーのタイプ
- クラウドを生んだバーチャル技術とは?
- クラウドの3つのタイプ
- IaaS (Infrastructure as a Service)
- PaaS (Platform as a Service)
- SaaS (Software as a Service)
- バーチャル技術は『レンタルサーバー』にも使われている
- 結局、クラウドサーバーとレンタルサーバーの違いはなに?
サーバーってなんだ?
最初にサーバーってなんだ?というところから始めます。
サーバーは、"server"(提供するもの・人)です。『サービス(service)』と語源は同じ。
サーバーの正体は高性能のコンピュータです。『インターネットにつないで使える高性能のパソコン』だと思って大丈夫です。
サーバーはどこかにある高性能のパソコン
クラウドサーバーとレンタルサーバーは同じもの
クラウドサーバーとレンタルサーバーは同じです。どちらもインターネットを使い遠くの別の場所にあるサーバーにアクセスして、自分のパソコンのように使います。
でもいまは違うものとして扱われます。その謎を解明するには、レンタルサーバーとクラウドサーバーの登場の歴史を見る必要があります。
クラウドサーバーとレンタルサーバーは、どこかにあるサーバーにインタネットを使ってアクセスして、自分のパソコンのように使う点で同じ。
レンタルサーバーの登場
レンタルサーバーを提供するサービスは、インターネットが爆発的に普及したころからありました。
ぼくがプログラマー・システムエンジニアになりたての2000年代のはじめのころは、あたりまえにあった記憶があります。ただ、『サーバーのリース契約』と言っていたように思います。
あのころはネット環境がいまほどよくないので、サーバー本体を借りていました。設置場所も自分で探します。
(会社の中に『サーバー室』なる部屋があった。)
プリンターのリースみたいなもの。
あのころのコンピューターは今よりも倍以上、高価なものでした。ぼくが買ったDELL製のデスクトップパソコンが25万円くらいしたほど。今は5万〜9万円くらいで買えます。
もうずいぶん前から、仕事をコンピューター化することは便利だと言うことは分かっていましたが、自前でコンピューターを購入すると何百万・数千万円もするので、大きな会社でないとなかなか導入できませんでした。
そこで、買うと手が出せない高性能のコンピューターを、手頃な値段で使えるように提供するサービスが始まります。レンタルサーバーです。
インターネットの環境が良くなったころ、サーバーをリースするよりも、サーバーを用意してそこにインターネットで繋いでもらうほうが楽なので、これが主流になっていきます。
いまのレンタルサーバーの形です。
光回線などの高速ブロードバンドが、手ごろな値段で使えるようになったことが大きい。
レンタルサーバーはなぜ安く提供できたのか?
レンタルサーバーを提供する会社は、高性能のコンピューターの購入に何十億・何百億円もかけて用意します。
レンタルサーバーは、どうして安くレンタルできるのでしょうか? ここに発想の転換があります。
昔はリースでも購入でも、コンピューターは自前で用意して自分たちだけで使うものという考えでした。人が住む家は一軒家だと思っていました。
それが、コンピューターはみんなで使おうと考えます。もちろん費用もみんなで負担するので、それぞれ負担する額は小さくなります。レンタルサーバーはシェアハウス。
家の管理費・電気・ガス・水道代は高額ですが、みんなで出し合えば少額で済みます。これがレンタルサーバーの仕組みです。
例えとして住まいの形が分かりやすいので、ちょくちょく出てきます。
クラウドという言葉の登場
クラウドという言葉が出てきたのは、Amazon Web Services(AWS)が2006年7月に提供されたあとからです。サービスの基本はレンタルサーバーと変わりません。
でも、2010年を越えたあたりから『クラウド』という言葉が新しいものとして一気に広まります。もう一度言っておきます。基本はレンタルサーバーと変わらないのに。
クラウドサーバーで使う人が変わった
『クラウド』という言葉が出てくる前は、レンタルサーバーを使う人はITにくわしい人や技術者だけでした。
インターネットを使ってレンタルサーバーにアクセスして、黒いウィンドウでよく分からないアルファベットを入力している光景を思い浮かべればいいです。まさしくこのような世界でした。
でも、AWSが登場してから状況が変わります。レンタルサーバーをだれでも操作・カスタマイズできるように、管理画面でマウスだけで操作できるようになりました。これで爆発的にその技術が一般に知れ渡ります。その呼び名が『クラウド』。
答えが見えましたね? クラウドは、一般に広まったレンタルサーバーの仕組みの名前です。
『雲のように、どこにあるのか分からないコンピューターを操作する』ところからクラウドと言われます。
クラウドが爆発的に広がった理由
クラウドが出てくる前は、レンタルサーバーは一部を除いてほとんど知られていませんでした。目の前のパソコンでアプリを使えるところまで、技術者が用意してくれたからです。
パソコンを使う人は、操作しているアプリがパソコンで動いているのかレンタルサーバーで動いているのか区別できませんし、する必要もありませんでした。
それが、技術者が用意しなくても、自分で用意できるくらいの簡単な操作で行えるようなります。
どうして、誰でも使えるようになったのでしょうか? そこに仮想化(バーチャル)技術の進歩があります。
レンタルサーバーのタイプ
レンタルサーバーについて忘れてたことがあるので、ちょっと話をずらします。
レンタルサーバーを操作する技術者などは、レンタルサーバー上で自由に作業できたわけではありませんでした。
シェアハウスなので、リビングや風呂・トイレなど、みんなで使うところは好き勝手に使えませんでした。共用サーバーです。でも、好きなように使いたいことがあります。
そこで、共用部分がないマンション型のレンタルサーバーが登場します。専用サーバーです。
専用サーバーは、高性能のコンピューター1台を丸ごと借りるので料金が高くなります。
(電気・水道・ガス代を全負担。家賃も高い。)
でも、そのコンピュータ上ではどんな作業でもできます。ご飯を食べる時間は自由だし、風呂にいつでも入れます。
このように、レンタルサーバーは、共用サーバーと専用サーバーの2つのタイプがあります。
共用サーバー(シェアハウス)
- みんなで使うので料金が安い。
- 好き勝手に自由に使えないところがある。
- 他人のせいでサーバーの調子がおかしくなることがある。
専用サーバー(マンション)
- 一人で使うので料金が高い。
- 自由に使うことができる。
- 他人に迷惑をかけることもないし、かけられることもない。
クラウドを生んだバーチャル技術とは?
話を戻しましょう。2000年代の中ごろから仮想化(バーチャル)技術が発達します。
これは、パソコンの中でアプリを起動して、そのアプリが1台のパソコンの役割をする技術。
パソコンの中でいくつもパソコンを起動するイメージ。もちろんこれらはアプリなので本物のパソコンではありません。だから仮想化(バーチャル)。
バーチャル技術の特長
- バーチャルのパソコンは1つのイメージファイルになっている
- 簡単に1台のパソコンと同じ環境が作れる
- ファイルなのでコピーが簡単
- ファイルなのでバックアップ・復旧が簡単
- 1台のパソコンと同じ環境を誰でも簡単に作れる
この技術は、レンタルサーバーの弱いところを克服しました。
- 本物の高額のコンピューターをたくさん買わなくても良い
- 値段を大幅に下げられる
- 共用サーバーと同じ環境で専用サーバーを提供できる。(1つの本物のサーバーでいくつもの仮想専用サーバーを作る)
- 共用サーバーの互いの干渉の軽減
- 障害対応が速い
このように、レンタルサーバーを扱う環境が大きく変わります。1番の変化は『専門家がやっていたことを誰でも簡単にできるようになった』です。
気づいたでしょうか? クラウドの誕生の理由は、『誰でも簡単に使えるレンタルサーバー』でした。それをできるようにしたのがバーチャル技術です。
クラウドの3つのタイプ
イメージファイルで簡単に仮想のパソコンが作れることで、いろいろなタイプの環境が簡単に作れるようになります。それがクラウドの3つのタイプです。
専門用語を使わずに説明すると言いましたが、ここだけは必要なので専門用語をつかいます。
IaaS (Infrastructure as a Service)
アイアース(イアース)と言います。
OS(Windows, Mac, Linux)がインストールされていないパソコンをクラウド上に作ります。
OSから選ぶところから簡単にカスタマイズでき、Windows, Mac, Linuxなど好みのOSのセットアップもボタンひとつでできます。
(ただし、使えるOSはサービス提供業者によって異なる)
これは、これまでのレンタルサーバーではできないことでした。これまでは本物のコンピューターだったので、OSを搭載したコンピューターを用意するのが大変でした。
低額や無料でOSを選ぶこともできません。(OSセットアップは高額だった。)
PaaS (Platform as a Service)
パースと言います。
OSまではインストールされた状態をクラウド上に作ります。アプリが何もインストールされていません。買ったばかりのパソコンを作るようなもの。
IaaS, PaaSまでは、一般のユーザーが使うことはありません。開発者が次のSaaSの環境を作るために使います。
でも、一般のユーザーでも環境が作れるくらい作業は簡単です。システム開発のスピードが格段に上がりました。
それまでのシステム開発では、環境構築に時間がかかりました。1〜2週間は当たり前。
専門的な知識も必要で技術者も必要でした。建設現場の足場づくりのようなものです。本格的な開発ができないので、この時間が無駄でした。
それがいまでは数分でできます。
SaaS (Software as a Service)
サースと言います。
クラウド上に、アプリまでインストールされたパソコンを作ります。
インターネットを経由してブラウザでいろいろなアプリを使うことができるようになりました。
会計ソフトなどが有名ですね? これがいま、Webサービスと呼ばれるもの。
バーチャル技術は『レンタルサーバー』にも使われている
いま、『レンタルサーバー』と呼ばれるものにもバーチャル技術は使われています。
月額数百円の共用サーバーは当たり前ですね? 専用サーバーは月額5千円以下で使えます。信じられないくらい安い値段です。
仮想化で設備投資が下がる
突然ですが企業の設備投資は莫大なお金を使います。
レンタルサーバーでは、高性能のコンピューターとそれを置いて安全に運用する場所。
バーチャル技術はその設備投資を大幅に下げました。たとえば、1つの実コンピューターに10個の仮想マシンを稼働させれば、設備投資は単純に1/10です。いままで10台稼働させてたものが1台で済みます。
それまでは、数百円で高性能サーバーをレンタルできるとは思いもしませんでした。共用サーバーで数千円、専用サーバーは10数万円は当たり前です。
こんな感じなので、レンタルサーバーは開発会社が借りるもの、システムの設備のひとつでした。一般企業はシステム設備の一部という感覚で、レンタルサーバーを使っている感覚はありませんでした。
仮想専用サーバー(VPS)の登場
ここで、バーチャル技術で専用サーバーに大きな変化が起きます。専用サーバーの仮想化です。
たとえば、1つの実コンピュータに10個の仮想専用サーバーを稼働させれば、10倍の人に専用サーバーを貸し出せます。VPS(Virtual Private Server, 仮想専用サーバー)です。
これで、価格が高いのでなかなか手が出せなかった人たちが、専用サーバーを使えるようになりました。同時に共用サーバーの価格も一気に下がります。
そして、サーバーの設定も管理画面で簡単にできるようになりました。これが、一般企業・個人のレンタルサーバーの利用を加速させます。クラウドという言葉がもてはやされた裏では、レンタルサーバーの変化が一気に進みました。
VPSの仮想専用サーバーを複数用意して、それを1ユーザーに貸し出したのがクラウド。
スペック(CPU, メモリ)の異なる仮想専用サーバーを複数用意することで、ユーザーが自由に簡単にスペックのグレードの上げ下げをできるようになりました。
VPSとクラウドに違いはありません。使い方が違うだけ。VPSの使い方をちょっと工夫して、便利にして出したら『クラウド』という名前で広がっちゃいました。
結局、クラウドサーバーとレンタルサーバーの違いはなに?
不思議に思うでしょう。クラウドサーバーにもレンタルサーバーにもバーチャル技術が使われています。そしてどちらも管理画面で簡単に操作できます。
違いは何だ? と言われれば、分からないです。
と怒られそうですが、本当にそうなんです。使う側からすれば、どこかにあるコンピューターを借りて動かしていることは同じ。
ただ中身が、共用なのか、専用なのか、バーチャルを使っているのか(VPS, クラウド)の違いですから。
サービスを提供している会社の言葉の使い方に合わせるしかありません。
言葉の定義が統一されていない
- クラウド型レンタルサーバー
- クラウド型専用サーバー
- クラウド型VPS
- クラウドサービス
これらをすべて区別できる人はいるでしょうか?
ボクには分かりません。メールや電話で問い合わせて質問攻めをしないと。だから、まじめに区別しようと思わないほうがいいです。
『レンタルサーバーとクラウドサービスの違いは?』と言われたら『分からない。会社ごとにちがう』で良いです。
- クラウドをどういう意味で使ってるか?
- 共用サーバー、専用サーバーはバーチャル技術を使ってるか?
- VPSとどうちがう?
などなど、基本的な知識をフル稼働してサービスの内容を見ないといけません。
ある程度、専門的な人でないと無理です。
唯一、『クラウド』で共通しているのは、CPU, メモリのグレード上げ下げが管理画面でワンクリックでできることでしょう。これができるものは『クラウド』と思っていいです。
(これができる時点でバーチャル技術を使ってる。)
ただし、これができないのに『クラウド』と呼んでいる業者もあるのでケースバイケースで判断しましょう。
最後のまとめが曖昧ですが、しょうがないです。そういう状態なんだから。
- クラウドの唯一の定義は、CPU, メモリのグレードの上げ下げが簡単にできるか
- それ以外は、各社の説明をケースバイケースで判断するか、気にせずにスルーする
一応、一般的に言われるそれぞれの特長はこんな感じです。
共用サーバー | 1台の実コンピューターを複数ユーザーで共有して使う。 (1台のパソコンにそれぞれユーザーアカウントを作るイメージ) (仮想マシンの可能性あり。) |
専用サーバー | 1台の実コンピューターをまるごと借りる。 (仮想マシンの可能性あり。-> VPSと同じ。) |
VPS | 1台の実コンピューターに複数の仮想専用サーバーを作って、仮想専用サーバー1台を1ユーザーに貸し出す。 |
クラウド | 異なるスペック(CPU, メモリ)仮想専用サーバーをいくつも用意して、まとめて1ユーザーに貸し出す。 (複数台のパソコンを借りるイメージ。どのパソコンを使うのかはユーザの自由) |
個人的なちがいの判断基準
基本的には業者の言葉を尊重しながら次の条件を見ます。
マシンスペックのグレード上げ下げが管理画面でできる。 | クラウド |
グレードの上げ下げはできないけど、sshログインはできる。 | 専用サーバー (VPS) |
グレード上げ下げもsshログインもできない。 | 共用サーバー |
ssh(Secure Shell, セキュアシェル)
インターネットを経由して離れたコンピュータを操作するための通信規約。高セキュリティのリモート操作を行う。
ログインするには、ユーザー名・パスワード(もしくは暗号化キー)が必要。
専用サーバーなのにsshができなくてftpだけというものは、じっさいは共用サーバーの可能性があります。
完全個室と言いながら、薄いベニア板で仕切られているだけの部屋と同じ。
(個人的にはダマされた気になる。)
低価格専用サーバー(クラウド)を謳うものに多く、ぼくはこの手を使う業者を一番信用していません。契約することはありえないです。
共用サーバーでsshが使えないのは、みんなで使うので、他の人のファイルを壊されると困るから。