リリースされてまだ1年なのに、2021年の年末でCentOS8のサポートが終了するらしい。
って運用じゃ使えなくなるってことじゃん。CentOSってどうなるの?っていう話です。
結論からいうと、代替のディストリビューションが出てくるので動向を見といたほうがいい。そんなに慌てることはない。
いきなりですが、CentOSがこれからの方針をガラリと変えました。今のCentOSは、Red Hat Enterprise Linux(以降RHEL)の廉価版クローンで、無償で使えます。
(RHELは有償。)
RHELは、Linuxの中でも安定かつ大規模システムにも耐えられるので信頼性の最も高いLinuxと言っていい商品です。
廉価版とはいえ、それと同じものが無償で使えるというのがCentOSの強みでした。
サーバーサイドのLinuxでCentOSを聞かないことはないほど。そのCentOSが『安定・高信頼を無償で使えるLinux』を辞めます。
CentOSは運用から開発へ移行
CentOSは8を終了させて、CentOS Streamにエネルギーを集中させるそうです。
(CentOS 8は2021年末でセキュリティパッチの提供などすべて終了。)
CentOS Streamは、2020年9月に発表された新しいRed Hat系ディストリビューションのプロジェクトで、RHELの1歩先を行くOS。
近い将来のRHEL = CentOS Stream
CentOSはStreamに一本化され『CentOS Stream = CentOS』になります。
Red Hat系LinuxにはFedoraというOSがありますが、これはかなりアグレッシブに挑戦したOSで、数年後のRHELに実装される新しい機能満載のOS。
たとえば、CentOS 8のパッケージ管理はyumではなくdnfコマンドですが、Fedoraには15年くらい前から実装されていました。
(ボクの記憶では。15年前はFedoraをよく使っていた。)
CentOSはこれから、RHELとFedoraの間に位置づけられ、先行しすぎるFedoraではちょっとキツいという人のためのディストリビューションになります。
Fedora | かなり先行したRHEL。 アグレッシブすぎて、長年、RHELに採用されない機能もある。 |
RHEL | 正規のRed Hat系Linux。 大規模システムでも安定して高信頼。 有償でサポートも受けられる。 RHELは有償で高機能だが、中小規模の運用では使わない機能も多い。 (お金を払っても使わないものがある。) |
CentOS | RHELの有償ライセンスを使い切れないユーザー向け。 RHELの廉価版クローン。 RHELの有償ライセンスを抜いて、基本機能を無償で提供する。 サポートなし。自己解決。 |
Fedora | 変わらない。 これからもアグレッシブに行く。 |
CentOS (CentOS Stream) | RHELの一歩先を行くOS。 RHELの上流、開発ブランチになる。 |
RHEL | Red Hat系Linuxの製品版 |
CentOS 8は終了しますが、CentOS 7のサポート・スケジュールに変更はありません。
(2024年まで。あと4年は使える。)
Linuxのシェアでは惨敗
これだけ運用で使われているCentOSなのになぜやめてしまうのでしょう。理由のひとつはLinuxのシェアです。
昨今のLinuxのシェアは、CentOS、いやRed Hat系Linuxは大惨敗を続けています。
というか、Debian系のUbuntuがすごい。
OS | 系統 | シェア (%) |
Ubuntu | Debian | 47.3 |
CentOS | Red Hat | 18.7 |
Debian | Debian | 17.6 |
Red Hat | Red Hat | 1.8 |
Gentoo | Gentoo (※1) | 1.5 |
Fedora | Red Hat (※2) | 0.4 |
その他 | - | 12.5 |
※1: GentooはGoogleのOS(Chromium OS)の元になったOS。
※2: FedoraはRed Hat系の最先端を行く先行型OSで、Red Hat系はFefora系に属する。
Red Hat系は負けてない
Ubuntuはライトユーザー向けにDebianから作られたLinuxで、デスクトップのUIを充実させたもの。
サーバーで使うというより、Windowsに代わって使うように作られたLinuxです。それがシェアを一気に伸ばして約半数を取るようになりました。
Red Hat系は数字だけ見れば大惨敗でオワコンに見えますが、サーバーで使われるOSに目を向ければ、まだまだ負けてません。
大差をつけられていますが、CentOSは長年、Debianと2位争いを続けています。
(4位以下はさらに大差で競争相手になっていない。)
RHELは大規模システムでは圧倒的に強いですが、そもそも大規模システムは全体からすると数に限りがあるので、4位でも大健闘でしょう。
『サーバーで使われるOS』という意味ではRed Hat系はまだまだ強いです。
『Linuxをどこで使うか?』を見るとRed Hatが全敗しているわけではない。それぞれ強みにしているところがちがう。
Ubuntuはシェアが大きくなる分野が強い。
無償はDebian系におまかせ?
CentOS 8の終了は非難轟々雨あられです。
CentOSプロジェクトの創設者のひとり、Gregory Kurtzer氏が新しいLinuxディストリビューションの『Rocky Linux』の立ち上げを発表しました。
(追記:一般公開が始まっています。上記リンクからダウンロードできる。)
Red Hat社は既存のCentOSユーザーを捨ててでも、インフラ環境の激しい変化に対応するためにCentOSのポジションを変えるらしい。
家電、自動車、家など社会インフラにインターネットを繋げる(IoT)のが当たり前になるので、そこに集中投下したいのでしょう。
もともと大規模システムに強いRed Hatなので、莫大な利益が見込めるし。
これ以上、CentOSを無償で提供するのは意味がないと判断されました。
UbuntuはGUIに強いLinuxに見えるが、サーバーでもけっこう使われていて、クラウドサーバーのOSイメージでもよく見る。
たんにライトユーザー向けに特化したLinuxではない。
(Windows10の標準機能、仮想LinuxのOSもUbuntu。)
Debianはオープンソースソフトウェア(OSS)で、無償で提供するのを信念として開発されている。
安定感があれば広まりやすい性格がある。
CentOSユーザーはこれからどうする?
一番割りを食ったのはCentOS 8を使っている人です。1年後にはサポート終了なので、次の移行先を決めなければなりません。
Red HatはCentOS 8の移行先にCentOS Streamを奨めています。
その例として、Facebookは大量に持っているサーバーのOSにCentOS Streamの派生OSを使ってるとのこと。
『Facebookが使ってるんならイケんじゃね?』と思いがちですが、彼らは自分で派生OSを作っています。
要はCentOS Streamを改造しているということ。世界屈指のエンジニアたちが。
個人的には、それが安定した運用を担保しているとは思わない。
また、IntelもCentOS Streamに参加してますよ、と言ってますが、CentOSユーザーに多いであろう中小規模システムの受け皿になっているとは思えません。
受け皿になるだろうRocky Linuxは作ることを発表しただけで、リリース日は未定。CentOSユーザーを吸収できるか分かりません。
MySQLがOracleに買収されたときに立ち上げられたMariaDBと同じ匂いがする。
個人的には中小ユーザーの受け皿になる可能性は高いと思っている。
CentOS Project shifts focus to CentOS Stream - Blog.CentOS.org
CentOS Stream: Building an innovative future for enterprise Linux - RED HAT BLOG
CentOS 8ユーザーの行く先は?
非難轟々の声には、『Ubuntuに行こう』という声も多いらしいです。
ボクの個人的な考えは、仮想化技術のコンテナを複数作ってロードバランサーで振り分けるなど、中小規模でも大規模システムに近いことをしない限りは、UbuntuでもCentOS Streamのどっちでも良いんじゃないかと思います。
CentOS StreamはFacebookやIntel、その他のコミュニティに参加している人たちの経験がフィードバックされて開発が進むので、OSSにポジション変更しただけにも見えるし。
CentOS StreamがDebian(Ubuntu)より不安定になるとは思えません。
コミュニティのフィードバックで進んでいく形はOSSと同じなので、『開発ブランチ = 運用で使えない』は短絡すぎると思う。
それを言ったら、Webサイトは作れない。Apache httpd, Nginx, MariaDB, etc... はOSSです。
『どっちや?』『何が言いたい?』と言われそうですが、ソフトウェアの安定性は突き詰めたらキリがありません。
どっかでリスクを負いながらやってます。Red Hatは、無償版はほかと同じリスクの大きさにしただけとも言える。
CentOS Streamが他に負けない自信があるのでしょう。
ニュースの大きさで瞬間的に沸騰しましたが、落ち着いたら『普通のことじゃね?』になってると思う。
CentOS 7ユーザーはどうする?
CentOS 7のユーザーは4年の猶予があります。あと2年くらいは待ってもいいかな?
CentOS 8のユーザーがどこへ行くのか見といたほうが良いし、Rocky Linuxのリリースも見えてくるだろうし。
CentOS Streamが代替として使えるかも分かるだろうし。
気にするのはインフラ・エンジニア
ニュースとしては衝撃的ですが、気にする必要がある人はインフラ・エンジニアです。
しかもある程度の規模をもったシステムの担当者。
ウェブサイトを立ち上げる程度の規模では気にすることはありません。そもそもこのくらいの規模なら、クラウドサーバーで用意されているSaasの仮想イメージを選ぶだけなのでOSが何かを気にする必要もないです。
(用意されているものを使えばいい。)
ただボクは、大規模システムの下請けを主にしていた会社に長くいたこともあり、LinuxといえばRed Hat系という先入観があります。
これを機にUbuntuでも使うか? と思ってますが、けっきょく元サヤでCentOS Streamを使ってる可能性が高い気がする。
数年後、どうなってるかは分かりませんが。
結論
ニュースの大きさに惑わされず、落ち着くのを待とう。
CentOS StreamがUbuntuに劣るとは言えない。
CentOS 8ユーザーは2021年中に移行の検証・作業が必要。
CentOS 7ユーザーは4年の猶予がある。2年待っても遅くはない。
個人の見解
CentOS Streamが本命。
ライトな使い方ではどれでもいい。
Red Hat系Linuxに用意されている検証環境
これからもRed Hat系Linuxを使っていこうという開発者のために、CentOS Streamに加えてプラットフォームが用意されています。
フェーズ | OS | プラットフォーム |
---|---|---|
運用環境 | RHEL | Red Hat Universal Base Image。 無償で再配布可能な開発者向けのイメージ。 RHEL Developer subscription。 開発者向けの無料のセルフサポート型サブスクリプション。 |
1歩先の 運用環境 | CentOS Stream | CentOS Stream。 CentOS上で開発・検証する。 |
先進的な 運用環境 | Fedora | Fedora Project。 Fedora上で開発・検証する。 |
RHELにテスト用のイメージと無償サブスクがあります。これを運用でも使ってしまう人がいるかもしれませんが、OSに異常が出たとき直すのは自分です。
また、無償サブスクのライセンス規約違反をしている可能性もあるので、あとでトラブってもいいなら自己責任でどうぞ。